2009-10-11(日) [長年日記]
_ 米澤穂信『ボトルネック』(新潮文庫)
なーんか朝から寒かったので、今年の秋になって初めてニットを引っ張り出してきてジャケットの下に羽織って出かけたら、暑いかと思ったけどちょうどよかったね。とはいいつつも、喫茶店にこもって本読んでましたよ。
米澤穂信は「小市民」シリーズと『さよなら妖精』ぐらいしか読んでないのだけど、新しい文庫はなんとなく手にとってぱらぱら見ているうちに買ってしまった。
好きだった女の子を弔うために東尋坊に来ていた主人公は、兄の告別式に間に合うようにと母に言われて帰ろうとしたところで絶壁から落ちそうになってしまう。
気がつくと住んでいた金沢。東尋坊にいたはずなのになぜ金沢にいるのか、理解できないまま家に戻ると、そこには自分の代わりに知らない「姉」のサキがいた。お互いにこの家の子供だと主張するものの、どちらも家のことを知り尽くしていて、どうも嘘を言っているわけではなそうだ…。
以下どうしてもネタバレになるので注意。
というわけで、信じにくいけど、もしかしたらパラレルワールドなんじゃない?とサキがいうのでひとまずそのつもりで話をする僕。
パラレルワールドからどうやって自分がいた時代に戻るかということはあまり考えていない、あまり帰りたくない世界だから。
しかし、自分の世界ともう一つのサキの居る世界の違いは、単にいろいろ違うだけかと思ったら、自分と同じ時にとったサキの行動が今の世界の違いを生んでいると分かって来る。サキと自分の違いが今の違いのもとだった。いろいろな相違点を見つけるにつれ、、自分の世界ではどうしようもないことだと思っていたことが、こちらではサキのおかげで不幸なことがいろいろと回避されていて、自分の存在が間違いなんだと…。
途中で出てきたパラレルワールドの間違い探しという言葉も踏まえていてうまくおさまってるなー。
サキがまたポジティブで勘がよくて、サキのしゃべりで途中話が進んでいくような気がする。このキャラのおかげでかなり救われてるなー。
村上貴史の解説がちょっと余計。
_ 石持浅海『BG、あるいは死せるカイニス』(創元推理文庫)
この人は全く読んだことがない人だったのだけど、ジャケに惹かれて。
タイトルは意味がわからないものの思わせぶりだなー。
高校の先輩であり、みんなから慕われていた優等生である最愛の姉・優子が天文観測の夜に学校で殺された。ショックも冷めやらぬ間にこんどは、優子さんの後継者と目されていた宮下さんも学校で殺されてしまう。
わたし・遥は親友美紀と一緒に犯人探しをしようとするが、わかったのは「BG」をはじめとしてつながりのないたくさんのキーワードだけ…。
普通に現代の女子高の話なので、こういうプロットだけ読むと普通の小説だけど、この作品では、人類は女性しか生まれず、子供を産んだ後に何割かが男性化する世界が舞台になっている。それも疫病などでそうなったのではなく、哺乳類では人類だけがそうなっている。
設定だけ聞くとかなり恣意的で強引な気もするが、自然に組み込まれていて、無理な設定になっているわけでもない。ただ、そういう背景があるために生物の授業やモノローグでもそういう関係性に触れられていて、それがあとで解明に効いてくるところが後半うまいなーと感じさせます。
なぜかこの本も解説が村上貴史で、さすがに同じスタイルの作者紹介を見たくないので飛ばしてしまった。
_ 相沢沙呼『午前零時のサンドリヨン』(東京創元社)
第19回鮎川哲也賞受賞作らしい。みてみたら発売されたばかりだった。
一目ぼれした同級生の女の子・酉乃初は無口で不愛想。でも放課後にレストラン・バーでトランプのテーブルマジックをやってる姿はとても魅力的だった。
取りつく島がない酉乃さんと仲良くなろうと、いろいろマジックの話を振ったりバーに通ったりするうちに、「魔法」で人を幸せにしたいという彼女の夢を知ったり、同級生を助けたりするのは嫌じゃなさそうなことがわかってくるが、どうしても壁があるようで。。。そうなとき、酉乃さんの中学時代の同級生から、彼女が昔嘘をついていたといわれるが…。
高校恋愛もの+日常の謎推理物の話で、事件解決エピソードを重ねているだけかと思いきや、各エピソードの人物関係が最後に意味を持ってきたり、酉乃がマジックにまつわる自分の問題を乗り越えたいと悩んでいたりするところが一気に噴き出してくるところは、伏線とエピソードの重ね方がうまいなと思う。
それはそれとしても、人助けと推理というとのび太並みにすぐに酉乃さんに頼り走る主人公とか、ツンデレというかなんで私がみたいな無愛想な酉乃さんとか(三雲岳斗『少女ノイズ』とか思いだしました)、半分それに仕えるしもべみたいな主人公とか、基本主人公は女の子の気持ちがわかりませんとかいう設定の話が多いのは何だろう。ライトノベルなら黄金パターンかもしれないがミステリファンには必ずしも受けそうと思えないし。