2009-10-03(土) [長年日記]
_ 東本昌平『RIDEX(2)』(モーターマガジン社)
『RIDE』で描いたバイクマンガ集第2弾。
NSR250Rでこけて怪我をするガソリンスタンド店員の話って、RIDEXの1巻につながるのだなあ。88年式の話。
2009-10-04(日) [長年日記]
_ 雫井脩介『犯人に告ぐ(上)(下)』(双葉文庫)
雫井脩介の『殺気!』を読んでまた他にも読みたくなったものの、警察もの(捜査もの)がそんなに読みたいわけでもないので既刊は敬遠してたのですがなんとなく代表作をさけるのも何かと思って手を出しました。
あっという間に読んでしまった。
物語は、5歳ぐらいの幼児を狙った連続殺人。犯人の手掛かりもなく膠着していた現場に、事態を打開するために一人の警視が抜擢される。その男は、かつて男児誘拐事件で指揮を執ったものの犯人を取り逃し男児も殺害されてしまい、マスコミの前で理不尽に責められたことがきっかけでキレてしまって左遷された巻島だった…。
巻島を陣頭に警察がとった手段は、警察がTV番組に出ることで犯人からの接触を待つ「劇場型捜査」だった。
こういう主人公、最近の作品だと五條瑛『ROMES06』の主人公成嶋優弥にちょっと似てるなあ。周りからは秘密主義だとか独善だとか言われながら内部の敵も探りつつ…。
ちがうのは、『ROMES06』のほうは主人公の狙いが直接書かれていない(勘のいい読者なら気づく)のに対して『犯人に告ぐ』は主人公の動きと、嵌められる側の動きが交互に描かれてだんだん迫っているところが描かれているところか。
この作品で大藪春彦賞をとって、受賞後第一作が『クローズド・ノート』だという落差がすごい。
2009-10-11(日) [長年日記]
_ 米澤穂信『ボトルネック』(新潮文庫)
なーんか朝から寒かったので、今年の秋になって初めてニットを引っ張り出してきてジャケットの下に羽織って出かけたら、暑いかと思ったけどちょうどよかったね。とはいいつつも、喫茶店にこもって本読んでましたよ。
米澤穂信は「小市民」シリーズと『さよなら妖精』ぐらいしか読んでないのだけど、新しい文庫はなんとなく手にとってぱらぱら見ているうちに買ってしまった。
好きだった女の子を弔うために東尋坊に来ていた主人公は、兄の告別式に間に合うようにと母に言われて帰ろうとしたところで絶壁から落ちそうになってしまう。
気がつくと住んでいた金沢。東尋坊にいたはずなのになぜ金沢にいるのか、理解できないまま家に戻ると、そこには自分の代わりに知らない「姉」のサキがいた。お互いにこの家の子供だと主張するものの、どちらも家のことを知り尽くしていて、どうも嘘を言っているわけではなそうだ…。
以下どうしてもネタバレになるので注意。
というわけで、信じにくいけど、もしかしたらパラレルワールドなんじゃない?とサキがいうのでひとまずそのつもりで話をする僕。
パラレルワールドからどうやって自分がいた時代に戻るかということはあまり考えていない、あまり帰りたくない世界だから。
しかし、自分の世界ともう一つのサキの居る世界の違いは、単にいろいろ違うだけかと思ったら、自分と同じ時にとったサキの行動が今の世界の違いを生んでいると分かって来る。サキと自分の違いが今の違いのもとだった。いろいろな相違点を見つけるにつれ、、自分の世界ではどうしようもないことだと思っていたことが、こちらではサキのおかげで不幸なことがいろいろと回避されていて、自分の存在が間違いなんだと…。
途中で出てきたパラレルワールドの間違い探しという言葉も踏まえていてうまくおさまってるなー。
サキがまたポジティブで勘がよくて、サキのしゃべりで途中話が進んでいくような気がする。このキャラのおかげでかなり救われてるなー。
村上貴史の解説がちょっと余計。
_ 石持浅海『BG、あるいは死せるカイニス』(創元推理文庫)
この人は全く読んだことがない人だったのだけど、ジャケに惹かれて。
タイトルは意味がわからないものの思わせぶりだなー。
高校の先輩であり、みんなから慕われていた優等生である最愛の姉・優子が天文観測の夜に学校で殺された。ショックも冷めやらぬ間にこんどは、優子さんの後継者と目されていた宮下さんも学校で殺されてしまう。
わたし・遥は親友美紀と一緒に犯人探しをしようとするが、わかったのは「BG」をはじめとしてつながりのないたくさんのキーワードだけ…。
普通に現代の女子高の話なので、こういうプロットだけ読むと普通の小説だけど、この作品では、人類は女性しか生まれず、子供を産んだ後に何割かが男性化する世界が舞台になっている。それも疫病などでそうなったのではなく、哺乳類では人類だけがそうなっている。
設定だけ聞くとかなり恣意的で強引な気もするが、自然に組み込まれていて、無理な設定になっているわけでもない。ただ、そういう背景があるために生物の授業やモノローグでもそういう関係性に触れられていて、それがあとで解明に効いてくるところが後半うまいなーと感じさせます。
なぜかこの本も解説が村上貴史で、さすがに同じスタイルの作者紹介を見たくないので飛ばしてしまった。
_ 相沢沙呼『午前零時のサンドリヨン』(東京創元社)
第19回鮎川哲也賞受賞作らしい。みてみたら発売されたばかりだった。
一目ぼれした同級生の女の子・酉乃初は無口で不愛想。でも放課後にレストラン・バーでトランプのテーブルマジックをやってる姿はとても魅力的だった。
取りつく島がない酉乃さんと仲良くなろうと、いろいろマジックの話を振ったりバーに通ったりするうちに、「魔法」で人を幸せにしたいという彼女の夢を知ったり、同級生を助けたりするのは嫌じゃなさそうなことがわかってくるが、どうしても壁があるようで。。。そうなとき、酉乃さんの中学時代の同級生から、彼女が昔嘘をついていたといわれるが…。
高校恋愛もの+日常の謎推理物の話で、事件解決エピソードを重ねているだけかと思いきや、各エピソードの人物関係が最後に意味を持ってきたり、酉乃がマジックにまつわる自分の問題を乗り越えたいと悩んでいたりするところが一気に噴き出してくるところは、伏線とエピソードの重ね方がうまいなと思う。
それはそれとしても、人助けと推理というとのび太並みにすぐに酉乃さんに頼り走る主人公とか、ツンデレというかなんで私がみたいな無愛想な酉乃さんとか(三雲岳斗『少女ノイズ』とか思いだしました)、半分それに仕えるしもべみたいな主人公とか、基本主人公は女の子の気持ちがわかりませんとかいう設定の話が多いのは何だろう。ライトノベルなら黄金パターンかもしれないがミステリファンには必ずしも受けそうと思えないし。
2009-10-12(月) [長年日記]
_ 石持浅海『月の扉』(光文社文庫)
前日の『BG、あるいは死せるカイニス』が面白かったので、代表作っぽいものに手を出してみる。
この作品は、沖縄の那覇空港を舞台にしたハイジャック事件を描いたもの。といってもハイジャック犯と警察の駆け引きとかじゃない。
沖縄で、その日その時にあることを達成するために3人の犯人は離陸直前の飛行機をハイジャックして警察に要求を出す。
機内を制圧した3人だったが機内で他殺としか思えない事件が発生する。しかし誰がどうやって殺したのか分からない。タイムリミットが迫る中で謎を解こうとするが…。
展開はうまい。シリアスな事件の展開中に別の密室殺人が起きてしまって、ふたつの事件を進行する羽目になる犯人たちの立場も面白いのだけど、巻き込まれて謎解き役を押しつけられてしまった乗客の彼がほとんど探偵役のように疑問をつぶしていくのだが、半分やけになってるとはいえ、彼がやたら乗り気なのが読んでてちょっと気にはなった。文句を言いつつも協力的なのだよなー。まあ、要求を突き付けた後は待ち時間なので、犯人も一緒に謎解きに時間がさけてしまうのだけど。
最後は思わぬ展開が、、、ということにもなるが結局主役は語り手に近い聡美ではなく彼なのだろうか :-)