2011-01-11(火) [長年日記]
_ 山口優『シンギュラリティ・コンクェスト-女神の誓約』(徳間文庫)
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徳間の第11回SF新人賞受賞作。11/5に出たときに買ってたのだけど、積ん読してたり行方不明だったりで読んだのはつい最近になってから。
ちょっとネタバレなところもあるが、読み始めたらすぐわかるのでいいことにしてください。
近未来の地球圏で、宇宙空間の背景輻射光が紫外線と紫の可視光線域に遷移して、宇宙が紫に染まる異変が起きていた。その原因や影響は解明されないものの、宇宙が破滅する予想が多く立てられたためにパニックになったりしたものの、それを解明するための国際協力プロジェクトが出来て、人工知能で解く案が有力であった・・・。
という背景があって、驚異的な人工知能のコンピュータ「メサイア」を要するステーションに別の人工知能のアンドロイド「アマテラス(通称:天夢(あむ)」が攻めてきて。その天夢は外見はものすごい美少女という。
話自体はちょっと恋愛が絡みかけたり、人工知能なのにすねたりとかありつつも、情感を育てるプロセスがあったりしてそれなりにおもしろかったのだが気になったというか、(この作品だけではないが)思ったことがいくつか。
- 日本人によるSFで、なぜかやたら日本文化を出してくるのが目に付く。アマテラスをはじめ日本神話や神道系概念。この作品でもアマテラスが天の岩戸に隠れてそれを誘い出すことを模したイベントが出てくるし、日本の戦闘機は「ヤタガラス(八咫烏)」で天夢たちのベース基地は「高天原」。『不動カリンは一切動ぜず』は不動明王、『スワロウテイル人工少女販売処』でもフルネームは妙に時代がかかってたり。昔のアニメ「機動戦艦ナデシコ」だと艦長の名字は「ミスマル(御統)」でコンピュータは「想兼」(オモイカネノミコト)とか、まあナデシコはシャレだけの気がしなくもないが。ナショナリズムの発露、とは思わないが、日本人が書いてるのに外国人ばかりだと何なので日本人ならではの独自性を出したいとかいう思いが出てくるのかなあ?
- 今度はこの作品だけの話だが、天夢の目は紅く、自分の勢力マップも紅くするところまではいいが、天夢が制圧するとコンピュータのモニターが紅くなり、メサイアが制圧するとブルーになる。ってどんなモニターの機能??ちょっとわかりやすくしすぎ。
- 天夢がメサイアにハックされ浸食されそうになったときに高負荷で頭から火花がでて煙も・・・(そんな馬鹿な・・・)
- まあ、145cmぐらいの身長で高性能量子コンピュータを積んでてなおかつ体の反応速度も驚異的という設定の時点でアレだが(機関砲の弾も、刀で跳弾させてよけるんです。ちなみに機関砲の弾は爆発するはずなのですが)
- 主人公たちの敵役が、わかりやすい原理主義すぎる。もうちょっと、わかるんだけど譲れないとか、かみ合うようでかみ合わない、とかであればいいのだが。
- アニメじゃないのだから大声出しながらとどめを刺すのはやめよう・・・
- この作品の天夢も、不動カリンも、スワロウテイルも、ライトノベルのレーベルでは無いのではないが、いずれも明らかに「戦闘美少女」ライン。(まあ少女が活躍するから買ってるので文句は言えないけども。)戦闘美少女じゃないとダメなのか?
- この表紙、偶然かもしれないが、ア・バオア・クーのシャア(略)
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