2010-01-30(土) [長年日記]
_ 石持浅海『人柱はミイラと出会う』(新潮文庫)
「座間味くん」の連作と同じく、固定のメンバーが出てくるミステリー短編集。3年ほど前に出た本の文庫化。
舞台は現代日本だが、江戸時代の風習が奇妙に受け継がれた世界になっている。
たとえばいまだに大きな土木工事では人柱を埋めるが、死ぬ前提ではなく地下の狭い小屋に入って完成まで閉じこもるのだとか、知事になったら参勤交代があるとか、議会でも政治家には一人ずつ黒衣がついていて代表質問でも黒衣なしでは成り立たないとか、既婚女性はお歯黒をするのがマナーだとか、厄年には1年休まないといけないとか。
思っていたのと違う風習にアメリカからの留学生リリーは驚くばかり。
人柱をやっている親友の兄・東郷直海と知り合って以来、何かと事件があるたびに直海の博識と不思議な推察力に驚かされるリリーだが・・・。 と今回は直海が安楽椅子探偵役になっていて、その中でもリリーの想いがつたわるのかどうかとかがちょっとずつ描かれている。
変な風習が形を変えて生きているという奇想を前提にした事件が起きるので、普通ならそもそもあり得ないことなのだが(『BG、あるいは死せるカイニス』も似たところあり)、特殊な前提だから何でもアリにしてしまうということもなく、部外者として留学生のリリーが読者と同じ立場で奇妙な風習に関心するという構図で眺めているところも面白い。
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